砂漠の夜の幻想奇談

「今まで、詩の意味に共感したことは一度だってなかったけれど…」

頬にそっと触れたのは、彼女を引き留めたくて傷ついた手。

「今は……少しだけ…」

不自然に途切れた言葉の続きは、少々強引に重なった唇に引き継がれた。


(シャー、ル…!?)


今までの口づけとは何かが違う。

懇願にも似た切なさと苦悩が垣間見える。


(押し返さなきゃ…!)


しかし、突き放せなかった。

拒んだら彼が泣いてしまう。

なぜか、そんな気がした。


「サフィーア…。君を引き留めたこと、後悔はしていない」


頬を紅潮させ肩で息をしているサフィーアを見守りつつ、シャールカーンは窓辺からゆっくりと離れていった。


(シャール…)


去り際に彼が残したものは、誘惑に長けた薔薇の残り香。






< 214 / 979 >

この作品をシェア

pagetop