砂漠の夜の幻想奇談

「サフィーア、おはよう。今日も汝の上に平安あれ」

朝一番、サフィーアの部屋に入ってきたのはシャールカーンだった。

まだ眠そうな顔をしたサフィーアに擦り寄ってくるのはいつものこと。


(うう~…離れて欲しいわ…!)


あの切ない口づけを受け入れた夜以来、彼を見るだけで鼓動が速くなるから困りものだ。

ましてや擦り寄られると無意識に身体が強張ってしまう。


(私…どうしたのかしら…。シャールを意識してるつもりなんてないのに…)


もんもんとしているとドニヤが部屋に二人分の食事を運んできた。

シャールカーンも一緒に食べるため、サフィーアの隣に座り水盤で手を洗う――と思いきや、今日の彼はいつもと違った。

普段通りサフィーアの横に腰掛けるも、食事に手をつけようとしない。

よく見たら食事は一人分の量だった。


(あれ?もしかしてシャールは、もう食べちゃったとか?)


疑問に思って彼の目を見つめれば、ふわりとした微笑が返ってきた。

「どうしたのかな?熱い視線で俺を見つめて」

どうしたと問いたいのはこちらの方なのだが、シャールカーンには通じない。

美しい笑顔を見せられて顔を紅くしながらも、仕方なくサフィーアは筆を持った。


< 216 / 979 >

この作品をシェア

pagetop