砂漠の夜の幻想奇談
「サフィーア姫……貴女と出会えましたこと、一生の宝です」
少し強張っていた彼の表情が和らぎ、穏やかな眼差しがサフィーアの瞳を見上げる。
「姫とシャールカーン殿の幸せを祈っております。心から…」
曇りのない笑顔でテオドールは今の想いを伝えた。
(テオドール……)
サフィーアの瞳が切なげに揺れる。
彼の気持ちに応えられない自分がとても悪い女のようで、罪悪感が込み上げてくる。
(ごめんなさい、テオドール!!)
椅子に座る彼にギュッと抱き着く。
「ひ、姫…!」
大好きな姫の温もりを感じ、腫れていない側の頬にサッと赤みが差した。
(それから……ありがとう…)
こんな自分を愛してくれて。
幸せを祈ると言ってくれて。
「姫……」
少々照れながら優しくサフィーアの頭を撫でるテオドール。
「サフィーア姫、一番に抱き着くべきお相手は別にいらっしゃるでしょう?」
もうしばらく抱きしめられていたいが、これ以上姫への想いを募らせたくはない。
そろそろ離れるべきなのだ。