砂漠の夜の幻想奇談

一日でも早く夫婦になってサフィーアと蜜月を過ごしたいのに、仕事が一段落するまで婚儀はオアズケ。

そうバルマキーから告げられたシャールカーン。

やるしかない、と諦めて書類に手を伸ばす。


「ああ、そうだ。サフィーア」

ふと思い出し、シャールカーンは窓際の長椅子に座って編み物をしているサフィーアに声をかけた。

「何?」と言った風に顔を上げるサフィーア。

そんなちょっとした仕種も可愛いと思いながら、にこやかな笑みを浮かべる。


「奴隷釈放証書、作ったから。これで君は晴れて自由人だよ」


(あっ!そうだった!すっかり忘れてたわ…)


ここに来た時、サフィーアはシャールカーンに奴隷として買われたのだ。

全くもって奴隷としての実感がないため、サフィーアにとっては単なる紙の上の問題だが、身分が戻らないと結婚できない。


(ありがとう、シャール!)


書いて感謝を伝えれば、妖艶な微笑が返ってきた。

「ねえ、サフィーア。婚儀の衣装、どんなのがいい?」


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