砂漠の夜の幻想奇談

彼が王子のままなら、身分のない自分でも望みはあるかも知れなかった。

だが、彼は王となってしまった。

隣に立つべき王妃は、やはりどこかの姫や貴族の娘が相応しい。


「申し訳、ございませんが…」

涙声になりそうで、唇をキュッと噛む。

と、ルームザーンの腕がマリアムを包み込んだ。


「何を言っているんだ?マリアム」

俯いていた彼女の顔をクイッと持ち上げる。


「私は王妃の話などしていない。私の妻になってくれと言っているんだ」

「え…?」

「マリアム、君を愛してる。私と家族になってくれないか?もう、私の周りには……誰もいないんだ」

父も兄達も死んだ。

母親は数年前に病死。


城内はとても静かで、ひっそりとしていて――。


「私を、殺さないでくれ…!私には君が必要なんだ」



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