砂漠の夜の幻想奇談


――王様の御子を生むこと。それだけが私の使命。果たせなければ私の存在に価値などない


初夜の時、自身にそう言い聞かせた少女は、見事に王の子を身籠もり正妃の中でも強い権力を得た。

後は息子の王子を王位につけるだけ。

それが達成されれば、全てが報われるはずだった。


はずだったのだ――。


「カン…!カンマカーン…!!」


立派な王子を育てて次代の王に据えるという夢は潰(ツイ)えた。

これから一体、何を支えに生きていけば良いのだろう。


否、今はそれよりも。


「私のカンを、返せぇえ…!!」


一人の母親としての自分が涙を流す。

愛らしい息子の笑顔が次々と蘇ってきて、胸が張り裂けてしまいそうだ。

「返せっ……私の、カン…!返し、て…おくれっ…!」


愛している。

大切な我が子。

柩に入ってしまった現実など、信じたくもない。








< 875 / 979 >

この作品をシェア

pagetop