砂漠の夜の幻想奇談
――王様の御子を生むこと。それだけが私の使命。果たせなければ私の存在に価値などない
初夜の時、自身にそう言い聞かせた少女は、見事に王の子を身籠もり正妃の中でも強い権力を得た。
後は息子の王子を王位につけるだけ。
それが達成されれば、全てが報われるはずだった。
はずだったのだ――。
「カン…!カンマカーン…!!」
立派な王子を育てて次代の王に据えるという夢は潰(ツイ)えた。
これから一体、何を支えに生きていけば良いのだろう。
否、今はそれよりも。
「私のカンを、返せぇえ…!!」
一人の母親としての自分が涙を流す。
愛らしい息子の笑顔が次々と蘇ってきて、胸が張り裂けてしまいそうだ。
「返せっ……私の、カン…!返し、て…おくれっ…!」
愛している。
大切な我が子。
柩に入ってしまった現実など、信じたくもない。