砂漠の夜の幻想奇談

「こりゃすげぇ!焼いた鳥肉に魚…酒に菓子まであるぞ!」

鳩や鶉、雷鳥の肉料理や揚げられた魚。

リンゴや桃といった果物に、バター入り砂糖菓子やレモン入りのパイ。

飲み物は酒の他にも薔薇の水やオレンジの花の水などがある。

「食っていいのか!?」

男がぎらついた瞳で目の前の料理を見る。

まるで飢えたハイエナのようだ。

「どうぞ。好きなだけ食すといい」

相変わらずサフィーアを抱いたまま、シャールカーンも料理の前に座る。

「今宵の俺は機嫌がいい。つい、おしゃべりになってしまいそうだ」

サフィーアの手首の縄を解いて、シャールカーンは鳥肉にかぶりつく男をちらっと見た。

「…そうだ。千一夜とは言わないが、少し俺の語りに付き合ってはくれないか」

男は忙しそうに口内にパイを突っ込みながら首を縦に振った。

頷いてはいるが食事に夢中といった様子だ。

けれどシャールカーンはそんな客人の態度にも寛容に微笑んだ。

「そうか。聞いてくれるか」

彼は男にやった視線をサフィーアに戻すと、ゆったりした声で囁くように語り始めた。



< 977 / 979 >

この作品をシェア

pagetop