マサハルさん

神崎さんはカラフルな箱を棚に戻しながら、次に、違うメーカーの単三電池を両手に持ち、何かを念じるかのような真剣な眼差しで、電池を見比べ始めた。


「遠くに行くんでしょ?」


神崎さんは、電池の間から僕を見てそう言った。

「遠くに行く」

柊の事を言っているということは理解できた。

だが、なぜ神崎さんがそれを知り、そして、それが、僕と神崎さんの関係に何か影響を及ぼすのだろうか。



僕はまだ、方程式を解いていない。

まだ、解いている途中だ。

ひょっとして、どこかで計算方法を間違ったのだろうか。

ただ、僕がひとつだけ理解できたのは、神崎さんの目が、電池を見比べていた時よりも真剣だったということだ。

 
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