ロフトの上の冷たい毒 星のない漆黒の空の下


達也の言葉に私は、彼の紺色のウールのコートの匂いを嗅ぎながら、行きます、と小さな声で返事をした。


一歩歩くごとに、血管に入り込んだアルコール分が全身に回っていく。

指先に。心臓に。目に。


……そして、脳に。


現実が遠のいてゆくような感覚の中、それでも、不思議なことに、私の二本の脚はしっかりと意思を持ち、達也の歩行に追いていった。



達也が言ったバーは、ちょうど貸切イベントをやっていて、部外者は入れなかった。


あっ……


地上へ上がる階段を登りきったところで、私の脚はもつれ、達也の身体にしがみついた。


「よしみ…」と呼び捨てに呼ぶ彼の声がした。


煌めくクリスマスのイルミネーション電球の下、達也はひと目も憚らず、私を抱きしめた。



そして、耳元で囁いた。


ーー2人きりになれる場所に行かないか……?



私たちは、イブの夜、その場所を求め、ホテルを何軒か廻り、30分以上彷徨った。




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