ヒールの折れたシンデレラ
高浜家に到着すると、恵が玄関でニコニコと出迎えてくれた。

あの時あんなに大きかったおなかがぺちゃんこになっている。

「こんにちは。遅くなりましたが、無事ご出産おめでとうございます」

そう伝えると明るい笑顔を見せる。

「ありがとう。宗治くんが女の子と我が家を訪れる日が来るなんて思いもしなかったわ」

「ちょ、そういうこと言うなよ」

ケラケラと笑いながら奥に歩いていく恵について千鶴と宗治も部屋へと向かった。

そして案内されたリビングには勇矢が小さな赤ちゃんを抱いて、いつも会社では見せない温かい笑顔を見せていた。

「よくきたな」

赤ちゃんを胸に抱いている勇矢を見るのはなんだか衝撃的だった。

いつもの冷静で完璧な姿とは違い眼鏡を外した勇矢は父親の顔をしている。

宗治と千鶴が近づいて“美波”と名付けられた赤ちゃんを見る。

くるくると目を走らせて口をパクパクさせている。

勇矢は千鶴に「抱いてみる？」と聞き千鶴は「いいんですか？」と顔をぱっと輝かせた。

ほんのりと甘い香りがする赤ちゃんをそっと抱く。

ふわふわしていて千鶴と目が合うと“ニコッ”とまさに天使の笑みを浮かべる。

「あぁ、笑った」

千鶴のその言葉に宗治も美波を覗き込む。
< 115 / 217 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop