ヒールの折れたシンデレラ
席に戻ってきた華子に艶香が声をかける。

「常務と夜食事を一緒にしたぐらいで、まるで赤飯たくほどうれしそうですね」

艶香のその言葉に今まで上機嫌だった華子が険しい顔をする。

「あら、やっかみはみっともないわ」

綺麗な髪を右手でさっと払いながら見下したような視線で艶香を見ている。

「はぁ?別にそんなんじゃないし。ただその勝ち誇った顔がむかつくだけ」

「まぁ、あなた年上に対する態度じゃないわ。そしてそのケバイ服装どうにかしなさい」

「そんなの今関係ないですよね」

ヒートアップするふたりをなだめようと立ち上がって園美が割って入る。

「あの、おふたり落ち着いて」

すると華子と艶香ふたりに睨まれて、おずおずと椅子に腰をおろした。

助けを求めるように、千鶴を見てくる。

仕方なく千鶴は受話器を持ち上げて、ギャーギャー煩いふたりに声をかける。

「今から常務に電話するんですけど、おふたりの言い争う声が聞こえてしまってもいいですか?」

そう言うとぴたりと声が収まり、どちらからともなく「ふん!」と顔をそむけてお互い席についた。

ゴングがなって試合終了。今日は引き分けでこれ以上は争わないでほしい。

千鶴は溜息をつきながら電話をかけた。

朝の会議が終了したようで、専務室から宗治にコーヒーを頼まれる。

給湯室に入り専務用のコーヒーを準備していると背後から声をかけられた。

「あの、それ私が持っていってもいいですか?」

振り向くと園美が立っていた。

「でも、園美ちゃんこういうの苦手じゃなかった?」

「はい。でも運ぶだけなら大丈夫だとおもうんです。私も専務に少しでも近づきたいんです」

朝のふたりの言い争いに比べると、何とつつましやかな子だろう。

千鶴はできるなら他のふたりでなく園美が宗治と結婚すればいいのにと思う。

「じゃあ、持っていってもらおうかな。仕事ばたついていたから助かっちゃった」

コーヒーの乗ったトレイを園美に渡してデスクへともどった。
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