ヒールの折れたシンデレラ
車を見送ってすぐにエレベーターに乗り十五階に戻る。

会議は十四時からだ。資料はすでに勇矢が準備して宗治に渡っているはずだ。

他に必要なものがないか今から宗治に確認をとらなくては。

重役会議ではいつもデリバリーのコーヒーが準備されるので、千鶴は緑茶を準備して常務室のドアをノックした。

「失礼します」と声をかけ返事を待って中に入る。資料を見ていた目を一度こちらに向けてもう一度「どうぞ」と声をかけられた。

お茶を置くと「ありがとう」と声をかけ、読んでいた資料を置き湯呑に手をかけた。

「君も色んなことに巻き込まれるタイプだね」

おかしそうに笑う宗治は、先ほどの高浜夫妻のことをいっているのだと分かった。

「そうみたいです。奥様大丈夫だったんでしょうか?」

「さっきこっちに連絡があって無事病院に到着したそうだ。そのままお産になるみたいだ」

「そうなんですね。安心しました」

何だか緊張がほどけて小さく息を吐く。

「安心してるみたいだけど、今日の重役会議の話聞いてる?」

「先ほどお願いしますとだけ……」

「第一秘書も後ろで控えることになってるけど、まぁ俺ひとりで大丈夫だから来なくてもいいよ」

宗治の物言いに「カチン」ときた千鶴が言い返す。

「高浜課長にも“常務をお願いします”と言われてます。私も秘書のはしくれですのでキチンと参加します」

「じゃあ、よろしく頼むよ。頼りにしてる」

どこか馬鹿にしたようにクスクス笑いながら言う宗治を千鶴は軽く睨んだ。

「さぁ、時間だ行こう」

そう声をかけられていつも勇矢が立つ宗治の右斜め後ろに千鶴はすっと立った。
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