ヒールの折れたシンデレラ
第二章

(1)二千円の紅茶

千鶴が秘書課に配属になって三ヶ月が経過した。会長の和子には「頑張ってる?」と一度声をかけられただけでそれ以上は何もない。


頑張っているもなにも、日々あの面々と戦い秘書としての仕事をこなすだけで精一杯だ。

(―――どうしてこんなことになったんだろう)

考えても仕方のないことを考えながら、千鶴の一日が今日も始まる。

今週はドバイの企業の重役、ムバラックが日本に来ている。

本来ならば第一秘書が段取りを行うのだが、勇矢は産後まもない妻を思って仕事の比重を一時的に減らしていた。

その部分を千鶴が補っていたので今週は目を回す暇もないほど忙しい。

気難しいと聞いていたムバラックに気をつかいながらの会議に接待が続く。

仕事の合間に土産が買いたいと家電量販店が並ぶ地域でカメラやひげそりなんかを買っていた。

満足そうな顔をしたムバラックを車まで案内していると、ふと街頭でチラシを配る女の子に彼の目がとまった。

「チズルさーん。あれは何ですか?」

流暢な日本語で尋ねてくる。

「あれは、メイドさんですね。ご主人さまに色々かいがいしくお世話する人のことです」

そう説明すると、目をきらめかせた。


「おぉ~あれが有名な『おかえりなさいませ、ご主人様』ですね!」

中東のドバイにまで浸透しているメイド文化に千鶴は驚いた。

「そうです、そうです。よくご存じですね~」

そんな会話を交わしながら、次の予定時間が差し迫っていたので車へと案内した。
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