ヒールの折れたシンデレラ
「チヅルさーん。楽しかったデースありがとデース」

勇矢の運転する車でメイドさんとのツーショット写真を大事に胸に抱いて、ムバラックは滞在するホテルへと上機嫌で戻って行った。

「行ったな」

「行きましたね」

同時に同じようなセリフが出てきて、驚いて目が合う。

そして同時に噴き出した。

「いや~しかし、ムバラックがメイド喫茶に行きたがっていたなんて驚いた」

「先日お土産探しに付き合ったときに、すごく興味深そうにみていたので」

会話を続けながらどちらからともなく歩き始める。

「今日は疲れただろう。ご苦労さま」

食事のときの失態を指していることが分かり「申し訳ありませんでした」と謝る。

「いや、俺も言いすぎた。今までの仕事が完璧だったからって、君だってミスすることもあるだろう」

反対に謝られて千鶴は驚く。

「君の機転のおかげでうまくいったんだ。この話はこれで終わり」

そう言って宗治は千鶴の頭を“ぽんっ”と叩いた。

と、同時に“ぐー”っと千鶴のお腹が鳴る。

宗治にその音を聞かれていないことを祈りながら、そっと顔を見上げると、口元に手を立てて必死で笑いをこらえている顔があった。

「すみません。どうぞ笑ってください」

こうなったら開き直るしかない。

「ごめん、素直なお腹だよな。飯行こうか?」

「え?私とですか?」

「他に誰がいるんだよ」

そう言いながら一度おさまった笑いが再度ぶり返した宗治が声をあげて笑った。

会社では、秘書としてまた『シンデレラ』として利用されるためにランチを一緒に取ることもあった。

だが誰にもみせる必要のない今誘われるとは思ってもみなかった。

「じゃあ、私の行きたいお店でいいですか?」

そう言って千鶴は宗治の前を歩き始めた。
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