ヒールの折れたシンデレラ
「煌太兄ちゃん。今日はありがとう」

サイドブレーキを引いた煌太に声をかける。

「千鶴、一人暮らし大変じゃないか?少しやせたみたいにみえる。つらいことあったら戻ってこいよ」

千鶴の頭をなでながら言う。

「やせたのはダイエットだよ。私も年頃だしね」

わざとおどける千鶴になおも煌太は真剣な顔で続ける。

「親父のことまだ許せない?」

そう聞かれて首を左右に振る。

「許せないのは叔父さんじゃないの。自分なのよ」

嘲笑を浮かべる千鶴に煌太はなおも頭をなで続ける。

「そうやっていつまで自分を責めるんだ?」

「煌太兄ちゃん、もうすぐあの絵がかえってくるかもしれないの。そうすればきっと何か変わると思う」

「千鶴……それって」

「別に変なことするわけじゃないよ。だから心配しないで」

そう告げると千鶴は車のドアをあけて外に出た。

「安全運転でね。今日はありがとう」

そういって煌太の車が見えなくなるまで手を振った。

正面玄関からエレベーターホールへ向かおうとすると名前が呼ばれた。

「――瀬川」

声のした方向をみるとそこには宗治が立ってた。
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