ヴァージン=ロード

「え?」

 知らず、小さな声が漏れる。

 そんな戸惑う黒猫の視線の先には、幸せそうな男女の姿。
 ここは、永遠の愛を誓う場所――。

 ずきん

「っ」

 ここは、結婚をするところだ。

 居心地が、よくないところだ。

「……ISAKIちゃん?」

 違う、違う、違う。

 私はこのラヴィンユを魅せるためにここにいる。
 この幸せを育む場所を――魅せるために。

 黒猫は首を振って、迷いを散らすように、逃げるように、バルコニーから部屋に飛び込んだ。

 私は黒猫だ。
 私は今、羽宮伊咲じゃないっ!

 気を取り直した黒猫は、またラヴィンユの探検に戻る。
 本当に、綺麗なところだと、そう言い聞かせて黒猫は歩く。

「ISAKIちゃん」

 カノンさんの、固い声が私を引き留めた。

「ISAKIちゃん、撮影をやめましょう」
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