ヴァージン=ロード

「今日のショーは見てもらいたかったの、宗広さんに」
「どういうこと?」
「宗広さんのお蔭だったから。ウェディングドレスを着て、穏やかな気持ちでいられたのは」

 私はそっとお酒を口に含む。ほのかな甘みが、美味しい。

「言ったよね、結婚に良い感情を抱いていないって」
「ああ、ラヴィンユでの撮影の時……」

 私は頷いた。

「私の両親は、不仲だったの。父は母のやることが気に食わなかったし、母も父のやることが気に入らなかった。ほんの、ほんの些細なことが引き金になって大爆発して、大喧嘩をしていたわ」
「……伊咲さん」

 突然の私の告白に、宗広さんは驚いたような顔をした。だけど、止める気はないようだ。

「怖い記憶しかないの、両親の……。ずっと、なんで結婚したんだろうって思ってたの。なんで離婚しないんだろうと思っていた。笑っちゃいますよね、私のためなんですって、離婚しなかったのは。私は一刻も早く家を出たかった……結婚なんて、幸せになれるわけないって思ってた」

 自分の気持ちを、素直に吐露する。
< 94 / 139 >

この作品をシェア

pagetop