雪どけの花
だが、その思いとは裏腹に、彼女は柵に手をかける。


「あたし、親にもクラスメートにも誰にも嫌われたくなくて、ずっといい子を演じてきたの。余裕なんてないのに、あるふりしてみたりして…。嫌な事があっても我慢して、親にも勉強が出来るって思われたくて自分なりに努力してきて。でも欲張るとダメね…無理があるって分かると、大きな声で叫びだしたくなったり、泣きたくなったりするの。どうしようもない今から逃げ出したくなる…」


「何言ってるんだよ。それは大原が自分で勝手にそう思い込んでるだけの事じゃないか!!誰もお前にそんなもの、求めたりしてないよ。お前は知らないかもしれないけど、クラスの皆はもっと大原と話したいと思ってる…一緒に騒いだり、馬鹿やったりしたいと思ってるんだよ。一方的に皆との間に壁を作ってるのは、お前の方じゃないか!!」

もどかしい…どうやれば上手く気持ちが伝わるんだろう。

分からなくて、僕は必死に言葉を探す。


「そうかな…」


「そうだよ」


「でもおかしくない?今までいい子を演じてきたあたしが、急に声を上げて笑ったり、皆とはしゃいだりしたら」


「…どうして?おかしくなんてないよ。大原は微笑むより、笑ってる方がいいと僕は思う」


きっと、凄い形相をしていたのだろう。

彼女はそんな僕を見て、小さな笑みを口元にこぼした。


「…ありがとう。何だか不思議ね…殆ど教室では話した事もない狭間くんに、こんな事喋ってるんだもの」


そう言うのと同時、腐食した柵が崩れる。


というよりは、そこが脆くなっていると知っていて、彼女が無理に力を加え壊したように見えた。


「大原っ!!」


僕は急いで助けようと走る。

そんな僕に彼女はにこり笑ってこう言った。



「良かった、最後に誰かに聞いて貰えて………」



そのまま、大原の姿は僕の視界から消えた。


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