ロング・ロング・ゴースト
ロング・ロング・ゴースト

10年ほど前までこの家にいた家族は、ピアノとこの家を捨てた
逃げた、というよりも、捨てた、とするほうが正しいだろう

愛娘が死んで、両親は、そこから逃げ出したのだ
娘との思い出がつまったこの家から
娘が愛したこのグランドピアノから


かわいそうなのは残された娘の幽霊
逃げ出した親を追いかける力もなく
ただただ、大好きなピアノに寄り添い
1人さびしく窓を見つめる毎日

「お母さん、どうしてわたしを置いていったの」
「お父さん、どうしてピアノを置いていったの」

連れていってほしかったのに
連れていってほしかったのに


少女はもう長い間窓の外を見ている
パサついた髪は重力に従って床に伸びている

肩ほどだった髪はもうずいぶん伸びた
ピアノの脚と少女の足をつなぐ鎖にもからまって。


彼女はもう長い間、ピアノを弾くこともせず窓を眺めている
今日もその瞳には太陽がうつる

「お母さん、まだかなあ」
「お父さん、まだかなあ」



ぼろぼろに崩れた家の片隅で
ロング・ロング・ゴースト
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop