ウソつきより愛をこめて

「静かにしろ。近所迷惑だ」

「迷惑なのはそっちだからっ!」

焦りまくる私をよそに、橘マネージャーはなぜかベランダの間仕切りの向こうから身を乗り出し、こちら側の手すりに長い足をかけていた。

(こんな高いところから落ちたら、絶対死ぬでしょ…!)

「ほら。手ぇ貸せ」

「こんな朝から、なにバカなことやってんの!?」

こちらに手を伸ばす彼に向かって、無我夢中で自分の両手を差し出す。

裸足のせいか足がかじかんで痛い。

あまりにも焦っていた私は、ベランダ用のスリッパを履くことすら忘れていた。

「あ…」

彼の身体がふわっと浮いてこちらのベランダ側に着地すると、もう片方の手が抱き込むように私の背中にまわってくる。

強く握りしめられた手の感触に、頬は赤らみ心臓の鼓動が一気に早さを増していった。

「あれ。…お前、なんか前より腰周り痩せた?」

「!!」

私の背筋から腰にかけてを、橘マネージャーの手が遠慮なく這い回っていく。

「抱き心地悪くなるから、これ以上痩せんな……うっ…!」

先週から懲りることなく平気でセクハラしてくる最低男の足を、私は力いっぱい自分の足で踏みつけていた。

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