ring ring ring
薬指の煌き
 子供の頃、クリスマスが近づくと、必ずどこからか「シングルベル」なんて言葉が聞こえてきた。言わずもがな、交際相手がおらずひとりきりでクリスマスを過ごす独身男女を表す5文字だ。子供心に、ダサいダジャレと思っていた。今でも思っている。
 でも20代も半ばを過ぎた冬、自分にもそのワードが当てはまるのだと気付いたとき、わたしの胸の内に、それまで感じたことのない焦燥感が芽生えた。
 見渡せば、中学や高校時代の友人たちは、幾度も出会いと別れを繰り返しながらも、彼氏なる人物を常に隣に据えていた。今ではほとんどの友人が結婚し、28歳の年なんて、友人たちの出産ラッシュで、お祝いの出費がかさんだわたしの財布は、いつも寒そうにぺったんこで、きっとこの財布だって、ふくよかでありたいと願って生まれたのだろうにと思うと、申し訳なかった。
 交際、結婚、出産。誰もが当たり前のように手に入れていく幸せは、わたしには一生手が届かない、遠い場所にあるもの。
 どうしたらそんな、順調そのものの人生を歩めるのだろう。
 それは、わたしにとって人生最大の、そして、どんな名探偵にも解決できない難問なのだった。
 わたしの元にも、ちゃんと来るのかな。人生の春というものが。
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