ring ring ring
 はるかちゃんは社内で上位に入るくらいかわいいと思う。彼女が入社したときの男性社員の浮かれようは今でも覚えているくらいだし、ファンと呼べるような社員はたくさんいるはずだ。そんな人の誘いを受け流す忠信さんは、ぜいたく者だ。
 【今日、仕事が終わったら話したいことがあるので会えますか?】
 いけないと思いつつ、どうしても物申したくて、ランチ後に勢いで忠信さんにメールしてしまった。無視されるかもしれないとも思ったけれど、
 【了解。20時には終わると思う】
 すぐに返信が届いた。
 繁忙期ではない今は、定時の18時とはいかないまでも、19時を過ぎればほとんどの社員が帰って行く。今日も周りが次々と退社するのを見届けながら、同じく仕事が片付いたわたしは、忠信さんが終わる時間まで資料整理でもしようとデスク上に引き出しの中の書類を広げていた。それでも、年末に整理してから半年程度しか経っていないから、それほど処分する書類はなく、あっという間に終わってしまった。20時にはまだあと30分くらい。
 「どうしよっかなー……」
 数人しか残っていない部屋で、頬杖をついた。わたし以外の人は、みんなまじめな顔でパソコンに向かい合っている。視線をずらして企画部とつながる扉を見た。忠信さんは、あそこにいる。直接話すのは別れ話が落ち着いて以来初めてだから、どんな顔で会えばいいのかわからなくて緊張した。
 と、そのとき、ドアノブが動いた。
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