ring ring ring
 賑やかだったテーブルが、しんと静まり返った。テーブルには、叩かれた振動が小さく残っていた。
 「……ゆ、由紀……?」
 しつこく言い過ぎたのだろうか。でもいつもの由紀からは考えられない剣幕で、
 「夫婦だからって、四六時中一緒にいたいわけじゃないのよ」
 彼女は唇の端を震わせていた。
 「……すいません、おれ、そんなつもりじゃ……」
 最初に古田さんを呼ぼうと言った責任を感じたのか、高林くんが気まずそうに謝ると、由紀はようやく我に返り、
 「や、やだ、わたし……ごめん」
 真っ赤な顔で、目にうっすら涙を浮かべた。立ち上がり、コートを手にすると、テーブルの面々を見回し、頭を下げた。
 「せっかくの雰囲気ぶち壊してすいません。今のこと、忘れて!今日はお先に失礼します」
 「由紀」
 「美波、大丈夫だから。ほんとごめん。また明日、会社でね」
 「由紀!」
 由紀は足早に出口へと向かってしまった。わたしも慌ててコートを取り、後を追った。
< 31 / 161 >

この作品をシェア

pagetop