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薬指の帰還
 その日、わたしは定時になるとすぐに退社して、企画展から戻る忠信さんと出くわさないよう細心の注意を払いながら駅へと向かった。
 高林くんから電話がかかってきたのは、無事にたどり着いた駅の改札前で、バッグから定期券を取り出そうとしたときだった。
 「もしもし」
 『お疲れさまです。高林です。海野さん、今どこですか』
 「駅」
 『まじですか?早いっすね』
 「どうしても岡田さんが帰社する前に会社を出たかったの。彼、戻って来た?」
 『まだです。直帰になるかもしれませんね』
 「そう。あ、わたしばっかり喋っちゃってごめん。何だった?」
 『あー、そうそう。ぼくももう出ますから、駅のほう行くんで、飯でもどうですか。ケータイ忘れて帰ったお詫びに、ちょっと多めに出しますよ』
 奢りますよ、ではないところが高林くんらしい。まあ後輩だし、奢らせるのも気が引けるので、そのくらいがベストだろう。
 そういうわけで、わたしは高林くんと待ち合わせ、駅近くのレストランに入ることになった。
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