R-Blood/Another night
1章・奇妙な夜
────────吸血鬼。

大抵の人間は吸血鬼に対して夢を見ていると思う。

美貌の妖魔で、美女の生き血を啜り、夜な夜な獲物を求めて人里に降りてくる。にんにく、太陽、十字架を嫌い、姿を蝙蝠に変えて夜を徘徊し、朝になると棺桶の中に戻って眠りにつく。残忍で冷酷な妖魔…というのが一般的な印象だろうか…。

だが、私が知る吸血鬼は少し違う。

他の吸血鬼との違いはと言うと、「偏食」だという。他の吸血鬼とは違い、血の味に固執する変わり者な一族で、ある者は美男の血、ある者は老人の血を好み、ある者は個人の血に依存する。

それは美女とか処女など関係ない。

変わり者と有名な最強最悪の真祖フレディ・ザ・フールの眷属 「Rareness Blood」。


直訳すると「珍奇な血」と言う名を冠した吸血鬼一族。またの名を「R-Blood」。それが私が遭遇した吸血鬼であった。


**********



「春香…貴女は選ばれし花嫁なのよ。」

「お前が、蓮条寺学園に入学が決まって会社内でも誇らしいよ。」

そう、両親が泣いて喜ぶ姿をみて、妹はこの上もなく美しく微笑んだ。

美しいホームドラマの一コマなのに、私こと佐々木冬歌は両親が何を嬉しいのか理解できなかった。

現在の人間社会は22世紀を迎え、変容してしまった。

かつて、人間によって地上から追い出され、虎視眈々と地下社会で暗躍していた異種族が地上世界を支配した。

経済を握り、宗教団体を蹴散らし、逆らう人間を容赦なく虐殺する、その勢力に人間は完全に降伏した。

その勢力とは、かつて、魔物と呼ばれた種族達。…狼人間(ライカンスコープ)、吸血鬼(ヴァンパイア)、人魚族(マーメイド)などからなる古血同盟(オールドブラットユニオン)である。

現在の世界は、全ての国々を彼等が全て掌握していた。日本もその一国であり、吸血鬼が統治している。

統治していると言っても放任主義らしく、滅多に一般国民の前には姿を表さず、永田町の議事堂の政治家や、各省庁の官僚達は粛々と政治を進める操り人形化され、我々一般国民は統治している吸血鬼に血の餌として、献血が義務化されていた。

笑える話だが、現在の吸血鬼は怒らせなければ比較的温厚だ。国民が献血するのだけを義務化しただけで、特に人間に害を与えない。何故か?それは、その方が人間を従わせるのに効率的だからだ。


圧倒的な能力を誇る彼等だが、唯一無視できない問題があった。

「花嫁」である。

花嫁とは、吸血鬼が自分の子供を宿らせることができる人間である。

吸血鬼の繁殖方法は二つ。

1、自分に適合した血を持つ異性の人間を孕ませる方法。

2、自分の血を直接人間に飲ませ、下位の吸血鬼に転換させる方法。

因みに、強い力を宿して生まれる吸血鬼は前者である。


春香が入る蓮条寺学園は、吸血鬼の餌兼花嫁を選抜するための超エリート校である。

吸血鬼の子息も生徒として通って花嫁をそこで探すらしいが、誰が吸血鬼なのかはわからない。私からすれば、蓮条寺学園は、吸血鬼の餌場であり、花嫁に選ばれれば今世の家族とは二度と会えなくなる監獄でしかない。

春香は、可憐な青春期をあの学園に囚われ私達の元には帰ってこないだろう。

確かに両親の愛を独占して生意気で、我が儘で、姉を姉と思わない不遜な妹だが、家族なのだ。

私は妹が蓮条寺学園に入学することはに反対したが、両親は私の話に耳を貸さず「妹の栄達を邪魔するな」と逆に叱られた。妹には「嫉妬するなんてみっともない」と鼻で笑われてしまい、家族の説得に失敗してしまった。

だが、妹よ。お前は知らないだろうが、私は嫌な話を聴いているのだよ。

私の友人のお姉さんも蓮条寺学園に入学を許されたが、入学後…音信不通で、行方不明のままだという。

果たして、あの学園は本当に栄達への道なのか?破滅に向かう場所ではないのか?その疑念だけが頭に過るのはどうしてだろう。

何も無ければ良いが…。


それから半月後、妹との連絡は完全に途切れ、私が予測していた通り、妹を溺愛していた両親は春香を入学させた事を後悔することになった。
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