R-Blood/Another night

・愚者の花嫁



私達3人はとりあえずリビングに場所を移し話し合う事になった。

変態美形はバスローブを着て何故か私の隣に座り、私の肩に手を回して上機嫌に鼻唄を歌っている。

只でさえ、高級ソファーのふかふかな弾力に身が縮むのに、隣の変態の大きな腕から逃げ出せない。ていうか肩を掴む手が離してくれない。

ガチガチに固まる私の向かいのソファーに座るメガネ少年は深々と頭を下げた。



「先程は失礼しました。」

「いえ、あの…私は佐々木(ささき)冬歌(とうか)といいます。お二人は?」

「え?僕はともかく…彼とは自己紹介もしてないのですか?」

「あ…まあ、いきなり血を吸われて気がついたらベットの中にいましたから…」

私がそう答えると、メガネ君は重い溜め息を溢し、変態に冷ややかな視線を向けると、私に再び視線を向けた。

「貴女の隣に座る彼は、フレッド・J・ホリー。僕は多嘉嶺(たかみね)康介と申します。」

「フレディって呼んでね、トウカ。」


へにゃりと微笑むフレッドの能天気っぷりに、「本当に吸血鬼?」と頭が痛くなるが、私は多嘉嶺君に話を続けるべくフレッドの発言をスルーした。

「あの、私はただ単に、差し入れをしにきた外部の者なんですが…ここは?」

「ここは、蓮条市の特区内で…フレッドの邸宅です。差し入れとおっしゃいましたが、ご家族がこちらに?」

「妹が…花嫁候補に…。」

「成る程、失礼ですが佐々木さんはおいくつですか?」

「今年で…十七歳です。」

「高二ですか…ふむ。」

そこまで聞くと、多嘉嶺君は少し考えこむと、メガネの位置を整え、制服の胸ポケットからメモ帳とボールペンを取り出した。

「…フレッド、僕から説明しますが良いですね?」

「ん、いいよ。俺は説明とか苦手だし…」


他人任せかい!とつっこまなかった私を誉めてほしい。

…この人色んな意味でダメ男な気がするのは何故だろう。

「では、改めまして…吸血鬼の事情はご存じで?」

「えーと、一般的な常識なら…ただ、日の光を浴びてもピンピンしているのには驚きましたが…」

「…吸血鬼の生態は機密扱いですからね。実際の吸血鬼はそこまで大量に血を飲みませんし、太陽も十字架も、ニンニクも効きません。それらの俗説は十字教のでっちあげです。ですが、その俗説で正しいものがひとつあります。それは美女、処女の生き血を好むと言う点です。

美しい女性の生き血は甘美で、処女の血は特に栄養価が高く長持ちします。貴女たち人間で言う高級食材と同じでしょうか。」


…まさかの栄養価の違いですか…なら、老若男女の血は何でもありって事か…。

「…この市には、栄養価が高い美形の人間達があつめられ、その中から花嫁が選ばれます。
栄養価の高い血を持つと言うことは、吸血鬼との交配に適した体質と言う意味でもあります…。

吸血鬼の赤子は栄養価が高い母体でないと胎内で死滅しますので、吸血鬼は同族の異性とは夫婦にはならず、血の栄養価が高い人間を花嫁、もしくは花婿とします。」


「じゃあ、人間と吸血鬼の間に産まれた子供はハーフ…ですよね。」

「映画の見すぎです。確かに能力は親より劣りますが、確実に吸血鬼が生まれます。最近分かったのですが、我々吸血鬼の持つ遺伝子は、他の種族の遺伝子を書き換えてしまうほど強いようで、胎児のうちから人間の遺伝情報を全て書き換えてしまうようです。

吸血鬼どうしの子供がまずできても、互いの遺伝子を食い合い、死滅してしまうという結論から伴侶は人間から選ぶ決まりになっています。大体は学園内から好みの味の伴侶を選びますが…フレッドの場合、適合する花嫁が学園にはいませんでした。」




「えーと、好みの味の花嫁がいなかったと?」


「そうです。彼は非常に偏食で、気に入らない人間の血はとことん飲まず、血液を凝固化したサプリメントと柑橘類しか食べません。」

…偏食にも程があるでしょそれ。

「そんなおり、彼が貴女の血を吸って、花嫁だと言いました…その意味がわかりますね?」




「…フレッドさんは、私を花嫁にしたいと?」

「うーん、それは違うよトウカ。もう、君は俺のお嫁さんなんだ。」

「…はい?」

「俺が直接血を吸って、君とキスをしたでしょ?その時、俺の血と唾液を飲ませたからね。」

「…っはああ!?」

「…え?え?ど、どういう意味?」

顔を強ばらせて立ち上がった多嘉嶺君に、何となく不安に陥る。私が思っているよりも深刻な事態なのだろうか?

「…っ貴方は…本当にトラブルメーカーですね…。」

「ありがとう。」

「誉めてませんから!?合意もない相手に襲うとは…貴方はそれでも真祖ですか!?」

「あ、あの?多嘉嶺さん、顔が真っ青ですけど大丈夫ですか?」

「大丈夫です。それより、佐々木さん、貴女のほうが深刻です。…二度と親元には帰れない
のですから。」



「え。」


二度と親元には帰れない?何かの聞き間違いではないのか?

頭が真っ白になって呆然とする私をみて、多嘉嶺君は痛ましそうに目を臥せた。

「ど、どういう事ですか…!帰れないって」

「どうもこうも、そのままです。彼は言うなれば、貴女の羽をもいで、自分の鳥籠に閉じこめたも同然なのですから。」







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