R-Blood/Another night

・家族



「多嘉嶺先輩!」

多嘉嶺康介はフレッドの舘から出ると学園へと直行していた。フレッドの花嫁の調査の手配と、学園長への報告のために。そんな康介の傍に一際華やかな一団が駆け寄ってきた。

吸血鬼の花嫁の座を狙う見目麗しい花嫁候補達に、康介は舌打ちをしたくなった。

普段なら適当に相手をするが、今は忙しい。そんなときに、近くで纏わり憑かれるのは花嫁候補とはいえ鬱陶しい。

「悪いが、今は相手をしている暇はない。」


そう、一言で美少女集団を退けると、学園長室へと駆けていく。

「…何あれ。」

「…どうしたんだろうね先輩。」

「あんな様子だとフレッド先輩が今日登校するか訊けないね。残念。ね、春香。」

「うん。」

名前を呼ばれた少女は名残惜しげに康介が消えた廊下へと視線を向けた。


***


あれから、怒濤の展開だった。

フレッドの屋敷のメイドさんに身ぐるみ剥がされ、風呂場で磨かれると、プロの美容師とスタイリストが待ち構えており、ボサボサな髪をスタイリッシュなショートヘアにカットされ、何故か女性用の服ではなく、男性服ブランドの服を着せられた。

スタイリストさん言わく、フレッドと外を出るとき私が女性だとバレるのは不味いらしい。

…のわりには凄いテンションで服を選んでいたな。

遅めの朝食を二人でとると、私とフレッドは黒服の男達に連れられ、そこら辺にあるような浮遊自動車に乗せられた。

「あの、何で私が女だと外に出てはいけないんですか。」

「花嫁な原則、外に出てはいけないんだ。吸血鬼の弱味だから、誘拐されて脅迫材料になることを防ぐため…かな。」

「はあ…。」

「あ、でも俺も蓮条市から出るの来日以来かな。」

「フレッドさんは、外国の方なんですか?」

「ん、2012年までは普通のイギリス人だった。」

「え、二百年前?」

「そー。俺、突然変異というか、自力で吸血鬼になった真祖だから、元人間なんだよね。」


「え、生まれた時から吸血鬼じゃないんですか!?」

驚きで目をぱちくりさせていると、フレッドは自分の髪を弄りながら、「そうだよ」
とほのぼのと返した。

「吸血鬼になるには、吸血鬼から血を輸血するか、親が吸血鬼じゃなくちゃいけないんだけど、吸血鬼の始まりってぶっちゃけ人間の突然変異なんだよね。自力で吸血鬼になった人間、真祖から枝分かれしていった吸血鬼が今の第8世代と第9世代と呼ばれる吸血鬼達なんだ。」

「フレッドさんは、その真祖なんですか?」

「そう。フィッシュ&チップス抱えてビックベンのあたりを歩いてたらなんか吸血鬼になってた。」

驚きの事実に私は開いた口が閉まらない。

気がついたらたら吸血鬼になってたとか、信じられない。何でなったのかも本人も良くわからないのだろう。

「それに俺、ほかの6人の真祖に比べて若いし、血族も少ないんだよね。強欲のアルカートに至ってはキリストが生まれる前から生きてるし、本当吸血鬼って不思議だよね。」

まさかの、紀元前生まれ…恐るべし。戦々恐々とフレッドをみやり私は話題をかえる事にした。

「フレッドさんは…」

「さんづけはいいから。」

「……フレッドは何故日本に?」

「ん~、日本の柑橘類が気に入ったから。」

「柑橘類?」

「うん、俺さ~…なんか他の真祖と違うんだよね。人間の生き血なんて飲んだことねーのに、いきなり飲まされて、拒絶反応起こしたんだよねー…。そこで、自分が偏食だってわかったわけ。人間にもいるでしょー?アレルギーで食べれないものがある人。」

「あー…はい。いますね。」

「俺の場合、完全にアウト、まあまあ飲める、大丈夫、飲める。の三パターンでさぁ…血を一回も美味しいと思った事ないんだよね。」

「二百年生きてるのに?」

「二百年生きてるのに。」

そう、言うとブレッドは座席の背もたれに背を預け、ちらりと私に視線をよこした。

何処か嬉しそうに目を細めるブレッドに、不覚にもドキリと胸を高鳴らせる。

美形の微笑は心臓に悪い。

「二百年…君を待ってて良かった。」

「…ッ」

「ごめんね、もう帰してやれなくなる。だから、両親にはきちんとお別れをいうんだよ?」


優しくあやすように言うと、フレッドは私の頬を労るように撫でた。

フレッドが悲しそうに言うものだから、私は本当に帰れなくなるのだと、漸く実感が沸いてきて、それ以上私は言葉が出すことができなかった。
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