月夜のメティエ
 もちろん産まない選択もあるだろう。それは個人の自由だ。
 あたしだったらどうするんだろうな。まだ先の話だけど。彼氏も居ないのに、結婚できないし。

「部長、あたしがいつ辞めても良いように準備してるんでしょ。妊娠しましたーなんてなったらアレだから」

 自嘲気味にカズヨ先輩が笑った。

「分かってるのよ。相田さんが仕事覚えていくのは良いことだもんね」

 先輩の胸の内は分からない。でも女って強いんだなって思った。結婚して、ご主人を支えて家のことをやって、フルタイムで働いて。「今晩、旦那ちゃんと久々に飲みに行くんだ~」なんてルンルンしてる時もあって、幸せそうだな、羨ましいなって思うんだ。
 こんなことを言ったら笑われるかもしれないけど、運命の王子様が(侍でもお殿様でも魔王でもいい)現れた時に恥ずかしい自分では居たくない。少しでも女性らしく、輝いていたいと思う。

「あ、今晩マツエク予約してたんだ」

 カズヨ先輩が言って、自分のデスクに戻って行った。新人くんはまだ真剣な顔をしてパソコンを睨んでいる。
 あとで遠坂部長の小言を聞かないといけない。気が重いけど、ひとまず目の前にある仕事を片付けよう。電卓とペンを持って戦闘開始。


「朱理、ハガキが来てたからそっち転送するよ」

 そうお母さんから連絡が入ったのが日曜日だった。あたしは昼近くまで寝ていて、ぼんやりする頭で受け答えをした。

「同窓会だって」

 同窓会……? 実家にハガキが来るとしたら、高校までだ。大学から先は一人暮らしをしていたから。いつの同窓会だろう。

「中学のって書いてあるわよ」

 10年以上も経ってからの同窓会か。

 大学から地元を離れて一人暮らしを始め、卒業して市内に就職が決まり、一人暮らしは続けたまま、今まで働いている。と言っても、電車で30分くらいのところが実家。小さな海辺の町だ。地元の友達とほとんど連絡を取っていない。結婚してママの人、遠くにお嫁に行った人。なんだか風の噂で聞くといった感じだ。1回引っ越しをして、今のマンションに来た。狭いながらもあたしの城。

 あたしはいま、26歳。みんなどうなっているんだろう。

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