月夜のメティエ
 子供の頃通った道も、公園の砂場や遊具。寄り道した駄菓子屋、あそこの犬にいつも吠えられたっけ。なんで大人になると小さく見えるんだろう。

 単純に体が大きくなったから、それもあるかもしれない。気持ちも大きくなったからかな。精神的にも色々経験してきたし……でも、なにかをどこかへ置き忘てきたような気持ちになるのは、なぜだろう。

 住んでるマンションのあたりよりも実家があるこの町の方が、空気が冷たい。なんでだろうね。背の高い建物が無いせいだろうか。

 道路の向かい側、買い食いしていた駄菓子屋の正面に来た。店の脇に犬小屋があって、そこに犬が居るんだ。犬小屋はあったけど、あんな色だったっけ……。立ち止まって見ていると、中から犬が出てきた。中学の時にあたしにむかってワンワン吠えていた犬と違う。あの頃は柴犬。今はなんか白い毛むくじゃらの犬種だった。

 立ち並ぶ家も店とかも変わってる。やっぱり、変わるんだな。

 中学校へ道を懐かしく思いながら、歩く。寒いなぁ。太陽は出ているけど、このまま雪がまた降らないと良いけれど。あの信号を渡れば、学校だ。

 あまり車が通らない道路を渡り、校門へ向かう。

 驚いたことに、校庭でサッカー部が部活をやっていた。試合でもあるのかなぁ。卒業生だけど、今時は不法侵入だなんだと騒がしいから、外から見てるだけにしよう。

 サッカーゴールは買い換えたのかもしれない。なんだか新しい気がする。ジャージはあたし達の時代と変わっていない。

 校庭を囲む桜の木の隙間から見える校庭。こうして歩いて登校して、朝練とか見てたな。校門は閉まっていない。今日は1月5日。もう学校開けてるんだろうな……。

 あまりうろうろしていると怪しまれそうだから、校門から少しだけ部活を見て、それで帰ろう。買い物もしないといけないし……おせちもお雑煮も飽きたし、何食べようかなぁ。

 ふと顔を上げると、校門のところに人が立ってる。サッカー部を見ているようだ。ザッザッというあたしの足音に気付いて、こちらを向く。おじさん……先生かなぁ。

「こ、こんにちわ」

 全力で「怪しくないです」という笑顔を作った。やばい、化粧してないし、髪の毛もなんかこう、起き抜けみたいな感じだ。後悔する。

「こんにちわ。あけましておめでとうございます」

「あ、おめでとうございます」

 そうだった。新年のご挨拶でしたね。

「もうすぐ試合らしいので、がんばってますよサッカー部」

 やっぱり試合か。雪がちゃんと溶けるといいなぁ。


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