レンタル彼氏【完全版】
………泉は泣いていた。




慌てた俺は泉の前に座ると、泉の頬を掴む。



「ど、どうした?!」


その言葉に、泉は奥歯をギリっと噛みしめる。



「ご、ごめっ、何かした?!」


俺、何かした?

さっきのキス?

それだけ?


わからない、泉の泣く理由が。




「……ち、がっ、う、れしくてっ」



震える声で泉は言うと、俺から視線をずらした。



…嬉しい?



ポロポロ流れ落ちる涙を、掬ってから俺は力任せに泉を抱きしめた。




「ふぇ、伊織、私も好き」


着替えたばかりの洋服が、泉の涙で濡れたけどそんなんどうだっていい。

そんな、シミすら俺は愛せる自信がある。





…離れてる期間が長過ぎた俺と泉は。



当たり前の様に交わされる言葉も。

当たり前の様に触れ合える環境も。




その、一つ一つがキラキラしていて。




目を細めても、眩むほど輝いていたんだ。




些細なことでも涙してしまうのは、涙腺が脆くなっているだけじゃない。


現実と幻の狭間で、まだ彷徨ってしまうから。



そして、これが現実なことが、ただ嬉しいから。
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