彼方は、先生だけど旦那様。
それから薫様は
小さい頃の話をしてくれました。


…それは私が思ってもみないような
壮絶な過去でした。


今の薫様のお母様、お父様は
薫様の本当のご両親ではないこと、

実の父のリストラ、
母への暴力

…そして、

母から薫様への暴力……。


それがあってから
薫様は「感情」というものを忘れてしまい、
笑うことも泣くことも
できなくなったと…。


「でも、まあ今はほとんど
良くなったけどね。ははっ。」

そう最後に困ったような笑みで
付け加えた薫様。



ポロ………



「…!
れ、恋々!?
ど、どうした??
なんで泣いてるの??」


慌てた薫様の言葉で気づきました。
私は、いつの間にか
涙を流していたのです。

…だって。
薫様は本当に辛い経験をして
そのせいで今でも感情がうまく
出せなくて…。

こんなのって、
辛すぎる…………。



「…か、…薫…様っ、
私…なんにっ…も…知らなくてっ…。」

薫様のことを何にも知らなくて。
それなのに薫様のことを嫌いに
なりそうになった私を許してほしい…。



泣いている私の頭を
薫様がポンポンしてくれました。


「ううん、違う。
僕が悪いんだ。
僕がまだ過去を忘れられないせいで
恋々を傷つけてしまったんだから。」

そんなこと言うから、
涙が止まらなくなっちゃったじゃないですか。

「違いますよっ、
薫様…はっ…な、何にも悪く…ないっ…ですよ!」

本当に薫様は悪くないです。
悪いのは薫様の…
いや、誰も悪くない…
誰も。


「いや、僕が悪い。」

「いや!私が!」

「いやいや、僕!」

「いやいやいや!私!」

「いやいやい………

ぷはっ。」


「…ふふっ。」


なんだか、このやりとりが
おかしくて。

「…じゃあ、
これは時代が悪いってことに
しときませんか?」

私が微笑みながらそう言うと、

「ははっ。
そうだね。時代が悪い。」

そう薫様も微笑んで
返してくれました。






こうやって、
薫様と笑いあえる日が来るなんて…。
嬉しくて嬉しくて…。
ただただ胸がいっぱいです。

さっきの気まずさはどこへやら…。











「あ!
薫様!もうこんな時間ですよ!
お風呂入ってきてください!!」












それから私達は、
昨日と同じように
一つのベッドに寝ました。


昨日と一つ違うのは
二人とも、お互いに向きあって
寝た…ということです。












「…ありがと…れん、れん…。」








薫様の寝言を聞いたことは、
誰にも秘密。







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