過保護な妖執事と同居しています!


 これからも私と一緒に生きていくなら、ちゃんと教えてあげなくちゃ。
 ザクロにとって大切な他者は私だけ。本郷さんのことで、私の心が傷ついていることはザクロにもわかっているはず。よし。


「ザクロ、しばらく私の前に姿を見せないで」


 弾かれたように顔を上げたザクロは、困惑した表情で私を見上げる。


「え? 今夜の食事は……」
「いらない」


 私が冷たく言い放つと、ザクロはうなだれたまま立ち上がった。そのしょんぼりとした姿に少し胸が痛む。


「かしこまりました」


 消え入りそうな声でつぶやいて、ザクロは姿と気配を消した。


 大きくため息をついて部屋を見回す。この部屋、こんなに広かったっけ?

 ザクロが毎日掃除して片付けてくれる部屋は、私ひとりがいた頃より殺風景なくらいだ。灯りもついているし暖房も入っているのに、なんだか冷たく感じられる。

 部屋を出てキッチンに行くと、ガスコンロの上にふたつの鍋が置かれているのが目に入った。ふたを取って覗いてみる。片方には野菜の煮物が、もう片方にはけんちん汁が入っていた。

 続いて冷蔵庫を開けてみる。一番上の棚には大根おろしの添えられただし巻き卵と、タレにつけ込まれたぶりが置かれていた。今夜は和食だったようだ。

 私は朝食の残りの野菜ジュースを取り出して、冷蔵庫を閉じる。グラスに全部開けて、一気に飲み干した。これで少しはお腹が持つだろう。

 着替えて化粧を落とそう、と思ったものの少しためらう。今ザクロはどこにいるんだろう。

 いつも私が着替えたりしているときはキッチンにいる。姿が見えないとはいえ、部屋の中にいるかもしれないのに着替えるのは恥ずかしい。

 ついでに全部すましちゃおう。

 旅行用に買った洗い流せるクレンジングクリームと着替え一式とバスタオルを持って、私は浴室に向かった。

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