3つのR


 私がそう言いながら頷くと、彼は後ろポケットに突っ込んでいたらしい携帯を取り出した。

「じゃあちょっと待ってね、上司の了解とるから」

「え?」

 歩きながら彼は携帯電話を耳に押し当てている。私はその後を歩きながら、ちょっと混乱した。上司?どうして私と一緒にお昼食べるのに、上司の了解がいるの?あれ?私、何か聞き逃している?

「おー、虎、あのさあ、今から山神のキッチン借りてもいいか?」

 彼は私に歩調をあわせてくれているらしかった。焦って歩こうとする私を手の平をパパッと振って抑えて、急がなくてもいいって呟く。

 や、優しい!私は少しばかり感動して、歩くペースを自分のものに落とした。

「ちゃんと材料は持参するっつーの。それか後で補充しとく。・・・え?いや、女の子と一緒だけど。あははは、お前、俺がそんなことすると本気で思ってんの?」

 何やら楽しそうにベラベラ喋りながら進む彼にひっついて、私はわけが判らないままで歩いていた。

 ・・・ええーっと。これからどこに行くんでしょうか。それに今、上司の人と話している電話とは思えない言葉遣いだけど(しかも虎って・・・名前も呼び捨て??)、それはまあ置いておいても女の子って誰のこと。・・・女の子・・・私、33歳なんですけど。それともまさか他の人の話だったりするとか??

 色々複雑な考えがぐるぐると頭の中をまわる。彼は最後にまた大きな声で笑ってから、じゃあまた明日な~と言って電話を切った。


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