双世のレクイエム
しかし朱龍も負けてはいない。
その大きな口から猛然なる息吹を吐き出し、校舎を焼き尽くす勢いで療杏に迫る。
「せやから関係あらへんもんに被害出すな…ゆーとるやんけっ!」
「グルルルルァァアアッ!」
さっと手を横に振り広がる炎を消す療杏。朱龍はところ構わず炎を吐き出すので、その後始末にも苦労がかかる。
しかしひと振りで炎を消した療杏の実力は、一体どれほどのものなのだろうか。
端で見ていたクロイは朱龍と療杏の戦いに見とれていた。
「(すごい…、龍は強さが最高レベルだというのに、あの人は対等に張り合ってる。一体どこの誰なんだろう…?)」
高揚した気持ちで見つめる先には、白銀のあの子。あれはワタルの身体であって性別は男であるのだが、クロイは女だと思っているらしい。
もう一度言おう。
ワタルは男であると。
「(あれほど強く美しい人は見たことない。是非一度話してみたいものだ…)」
ワタルを女だと思い込み、ましてや惚れてしまったクロイが些か可哀想でもあるが、ワタルも療杏納得のショタ顔なのでそこは惚れられたワタルも可哀想なのだろう。
とりあえずも今は、二人が顔を会わせないことを願うばかりだ。
クロイに見つめられていると気づかない療杏は被害もそこそこに、そろそろ決着をつけようかと印を組む。
お遊びはここまで。まだまだ青いひよっ子に、我々双世が負けると思うなよ。
ニィイっと口角を上げた療杏は、朱龍に目を移したまますぅと息を吸った。
が、ふと視線を感じた療杏は一体どこからだろうと辺りに目を向ける。目が止まったのは、校舎内からこちらを見上げ、高揚とした眼差しで見つめてくる青年・クロイがいたからだ。
「…な、なに見つめてはりますのや」
療杏のいるここからクロイのいる場所までかなりの距離があるため、療杏の引いた呟きはクロイに届くことはない。
視線の合ったクロイは、人知れずガッツポーズをしていたという。
が、その瞬間を朱龍が見逃すはずもなく。
「グルルルルルァアアッ!」
<リャオ!避けろっ!>
「っ?!」
油断していた療杏に躊躇なく朱龍が大口を開けて突っ込んでくる。
咄嗟に療杏は避けたものの、熱を帯びた朱龍の胴体にワタルの右手が触れてしまった。
「熱ッ」反射的に手を引っ込め状態を確認する。火傷して変色し、ぷっくりと腫れた右手は痛々しく見える。
<おいリャオ!大丈夫か?>
飛んできた豪蓮に腕を掴まれ、おなじく状態を確認された。
「わては大丈夫どす。せやけどワタルはんの右手が…」
<ああ、こりゃ重度の火傷だ。早いとこ決着つけて、手当てした方がいい>
豪蓮の言葉に「そのつもりどす」と、こくりと頷く療杏。
しかし様子がおかしい。