双世のレクイエム



…おかしい。
何かがおかしい。

一体どうなっているんだと黒髪の青年・クロイは眉をひそめる。

ノイジー・ファイト出場者控え室にて。
クロイは辺りの様子を懸念せずにはいられなかった。

初めてのノイジー・ファイトに高揚し、緊張した面持ちを見せる1年生出場者たち。

それを申し訳なさそうな目で見る2年生陣と、可哀想なものを見るような3年生陣の姿。

それらはクロイに少なからず疑問と、そして不快さを与えた。

なぜ皆一様に、そんな目で自分たちを見るのだ。
まだ闘いは始まってすらないというのに。

徐々に込み上げる苛立ちを隠しながら、会場から聞こえる司会者の「入場!」という声に、クロイは拳を握りしめて右足を上げたのだった。











「すごい」

まず第一声は、それだった。

自分たちを囲んで見下ろすようにして悲鳴を上げる観客たちに、ワタルは圧倒され思わずその言葉が漏れた。

既に隣から居なくなっていたエルも、いつの間にか観客席にいる。
…速いなあいつ。


「すごく盛り上がってるねぇ、まだ始まってないのにぃ~」

「…オリトちゃん」

「にははっ、『ちゃん』はいらないよーんっ」


こちらも同じく、いつの間にか隣に立っていた白髪の少女・オリトに警戒心を抱きつつ、ワタルは今の気持ちを素直に言葉にした。


「すごい人、だよね。ノイジー・ファイトがここまでの規模だとは思わなかった。
…そんなにみんな、俺たちが屈辱を受ける姿を見たいのかな」


上級生と下級生。

双方を見れば、どちらが勝つなんて一目瞭然だ。
つまりそれは、羞恥プレイとなんら変わらない。

興奮している1年衆のほとんどは未だ気づいていないのだろう。

この後に、ノイジー・ファイトで圧倒的惨敗を強いられることとなる1年生の、悲惨な未来を。


「…へぇぇ、ワタルも気づいてたんだ、この理不尽なファイティングに」

「控え室に入ったときから少なからず。少しは期待してたんだよ、控え室は同じでも闘いになったら上級生も下級生もちゃんと分けてくれるって。
…でも、やっぱ駄目なんだね」

「にはは、ワタルは可愛いなぁ~。ここの教師にゃ甘さは通じない、むしろ命取りだっちゅーのっ!
あたしらはせーぜー、上級生共のお飾りってやつぅ?」

「……。」


お飾り。

確かに的を射て、それでいてなんて酷な言葉なんだ。

ワタルは拳を握りしめ、隣に立つオリトに目を合わせた。
オリトも同じことを考えていたのか、目を合わせるなり二人は口を揃えてこう言った。


「「そんな理不尽、ぶち壊してやる!」」


本日の天候、晴天なり。
後に、大荒れとなるでしょう。

みなさん、みなさん。
ご注意ください。

本日の天候は、晴れのち爆発。

二人のロリショタにお気をつけください。
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