ラベンダーと星空の約束
 


凄く迷った末、やっぱり流星の分も用意した。



2人分のお弁当を手に、
いつも待ち合わせていた、学生食堂の裏へと向かった。



校舎の角を曲がりそこを見ると、まだ流星の姿は無い。



来てくれるという期待半分、来ないかも知れないという不安半分で、

段ボールを物置から持って来て、草の上に敷いて待つことにした。



すぐ横の食堂へ繋がるドア。
昼食をとる生徒達の、賑やかな話し声が漏れている。



晴れ渡る初秋の空。

コンクリート塀の外の街路樹で、小鳥がピチチとさえずっていた。



朝晩は肌寒い風の吹くフラノとは違い、
東京の初秋は残暑が厳しい。



日中はアスファルトから陽炎が立ち上る程暑いけど、

北側のこの場所は、すっぽりと校舎の影に覆われて、涼風が心地好く吹き抜けていく。



風に吹かれ待つこと5分…10分……

流星は現れない。



膝を抱えて俯きながら、じっと彼を待ち続けた。



食堂の騒がしさが落ち着いてきた頃、

食堂の外扉が開く音がして、流星かと思い顔を上げた。



しかし、出てきたのは、
煙草を片手に休憩しに来た慶子さんだった。



そうだった…

慶子さんは食堂の混雑が過ぎ、調理の仕事が一段落したら、

いつも一服する為ここに来るんだった…




「今日は一人かい?」



煙草に火を点けながら彼女が聞く。

包みの開けられていない2人分のお弁当に視線を落とし、不思議そうにする。



「大ちゃんはどうしたのさ。学校に来てないのかい?」



「来てると思います…」



「おかしいね…ニ学期が始まってからまだ一度も食堂に来てないよ。

財布忘れてもツケで食べに来るあの子が…ちゃんとご飯食べてるのかね。

あんた柏寮の子だろ?
唐揚げサービスしてやるから、食べにおいでって言っといて?」



「はい…」




流星が食堂に一度も来ていない…?



学校に来ているのは確か。
制服姿で出て行って帰って来るもの。



水曜日以外はいつも食堂で昼食を取る流星。


慶子さんに甘えて
「唐揚げ一個サービスして〜」
といつも言ってたのに……



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