ラベンダーと星空の約束
 


「あっ! 小林さん!
待ってましたよ〜

ラベンダーも終わっちゃったから、今年はもう来てくれないのかと…淋しくなっちゃいました〜」




「いや〜そんな事言われたら、おじさん照れちゃうよ。

嬉しい事言ってくれるな〜!

仕事忙しくてさ、やっと休み取れたから、急いでフラノに来たんだよ。

もちろん紫ちゃんに会いたくてね」




「ふふっ おじさんだなんて、まだまだお兄さんですよ?

私も小林さんに会いたかったから嬉しいです!

毎年来て下さいね?」




「ところで…お店終わったら一緒に夕食でもどう?

去年は“産後うつ”のお姉さんの赤ちゃんを預かってるから、忙しいって言ってたけど…今年はいいだろ?

美味しいレストランにでも行かない?」




「是非!と言いたい所ですけど……

今年は去年預かってた子と、その弟をダブルで面倒みていて…

あっお姉ちゃん2人目出産して、また産後うつになったんです。


仕事終わったら、すぐに保育園に迎えに行かないと。

でもアレですよね!
少子化日本ですから、お姉ちゃんにはどんどん子供産んで欲しいですよね!


私も最大限の協力をしないと。

レストランはまた来年誘って下さいね!


それと、お土産にはこれがオススメです。

今年からの新商品で、しっとりスポンジケーキに富良野産のクリームチーズを……」





数年前から毎年来てくれる小林さん。

彼にお土産をどっさり買わせ、営業スマイルで出口まで見送る。



それからレジに戻ってくると、瑞希君が奇妙な生物を見るような目つきで私を見ていた。




「瑞希君何?
何か言いたそうだね?」




「いや…僕の中で、紫ちゃんをどう位置付けていいか、分からなくなって……」




「何よそれ…お店の中の顔と、柏寮での素の顔が同じな訳ないでしょ?」




「あ…僕らに見せてる顔は素なんだ…良かった。

ねぇ、来年はお姉さんの子供が3人に増えるとか?」




「小林さんが来年も誘って来たらね。

今度は産後うつじゃなく、マタニティーブルーにしようかな。

ワンパターンだと、小林さんもつまんないよね」




「紫ちゃん…無自覚な様だから教えてあげるけど…

大ちゃんのチャラ男モードより、君の方が酷いと思うよ……」





 ◇


今日は快晴。

雨雲に置いてきぼりにされた小さな綿雲の塊が、澄んだ青空に一つだけ浮かんでいるのが見えた。



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