ラベンダーと星空の約束
 


この指輪は、流星の父親が亡くなった母親に送った婚約指輪。



これにはきっと沢山の想い出が詰まっているのだろう。



シルバーチェーンのネックレスごと、指輪を流星の手の平に乗せた。



流星はその重みを計っている様な仕草で、手首を揺らし、それを見ている。



手の上でチェーンが動き、シャラリシャラリと音を立てた。



シャラ…シャラ…シャラリ……



金属が擦れ合い奏でる音色は、綺麗だけど、どこか淋し気……



ずっと身に付けていた物が外され、首と胸元が急に軽くなり、物足りなさを感じ淋しくなった。



流星が指輪をポケットに仕舞ったのを合図に、

私はコートを、彼はカーディガンを羽織り帰り支度をする。



病室のドアを開けると、流星の分の夕食を手にした看護師と鉢合わせた。




「大文字君、夕食ですよ?どこ行くの?」




「あ、取りに行かなくてすいません。

1階まで彼女を送ってくるので、そこに置いといて貰えますか?」





看護師が去った後、夕食が冷めるからここでいいと言ったのに、

「送らせて」と言われ、手を繋がれる。



いつも隣を歩く時は、流星の腕に掴まらせて貰い、手は繋がない。



だけど今日は手を繋ぐ。

それも指を絡めた恋人繋ぎなので、少し恥ずかしい。



赤い顔で「どうして?」と問うも、ニッコリと微笑みを返されるだけだった。



エレベーターまでゆっくりゆっくりと歩む流星の足取りは、足を引き擦る私以上に遅く、

途中から私が彼の手を引いて歩いているみたいになる。




「流星、そんなにゆっくり歩かれると、バスに乗り遅れるよ」




「あ、ああ、ごめん。」





6階から誰もいないエレベーターに乗り込む。



扉が閉まるとすぐ、流星は壁にもたれる私の両サイドに腕を付き、抱え込む様に唇を重ねる。



いつもより強引に入り込む舌先…

貪る様に吸い上げる唇……



そんなキスの間もエレベーターは静かに…一片の振動もなく下降を続け、

やがて音も無く静止して扉が開いた。



外来診療が終了しているこの時間、1階のエレベーター前の廊下は薄暗く、ひっそりとして誰も通らなかった。



唇を外して私を見下ろす茶色の瞳。



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