ラベンダーと星空の約束
 



「結論を急ぐ必要はないけど…考えてみて……

取り合えず、柏寮に居ても生活出来ないから、新しい住所に移動しようか。

大丈夫?立てる?歩ける?」





瑞希君は首を傾げて私の顔を覗き込み、心配そうな表情を向けていた。



ナチュラルで可愛く仕上げた上手なメイクの下に、彼の疲労の色が滲んでいた。



傷ついているのは、私だけではない。



今朝柏寮に戻り、この手紙を見付けた瑞希君は、

きっと何も予感の無い所に一気に事実を突き付けられ、かなりの衝撃を受けた事だろう。




流星の実家に行ったり、学校に確認を取ったり…

そして私に実状を伝えるという苦しい役割も任され、辛かったと思う。




それでもこうして私の側で心配そうな顔をしている彼は、強く優しい人。



傷ついても、泣き言一つ言わずに、流星の手紙にあった頼まれ事を引き受けている。



『瑞希を信じてるから』



あんな言葉を残されたら、私という重荷を捨てる訳にいかずに……





「私は大丈夫だよ…

瑞希君も辛いのに…ありがとう心配してくれて……」




「………」





そう言って精一杯の笑みを作ると、瑞希君は驚いた様に目を丸くした。




「ん…? 何?」




「いや…僕を気遣う余力があるんだなと思って…驚いた。

実はさっきから戸惑っていたんだ。

君の反応が予想外だったから」




「予想外?どんな反応をイメージしてたの?」




「取り乱して泣く…そんな感じかな」




「私は…泣かないよ……」





凄くショックだった。

突然の別れが恐らく私の為だと思うから、尚更にショックが大きかった。



けれど涙は一滴も零れない。



何故だろう…
泣いてはいけない気がしていた。



泣き喚いていたら、益々流星が遠ざかり、

手の届かない所まで行ってしまいそうな恐怖に駆られていた。



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