ラベンダーと星空の約束
 


ロシアに対する間違った認識は何とか訂正出来たものの、

私の体を心配してくれているのか、

それとも自分が流星に言いたい事が沢山あるからなのか、大樹は「行く」と言ってきかない。



我妻さんの自宅の電話番号は、以前貰った名刺に書かれているから分かる。


でも電話やメールと言う手段じゃなく、直接会いに行くと言う方法については私も賛成。



折角見つけた流星の居場所、もう逃がす訳にいかないから、流星の顔を見ながら直に想いをぶつけたいと思う。



だからこそ、大樹一人をモスクワへなんて、とてもじゃないけど行かせられない。



異国で迷子になりそうな事も不安材料だけど、

それよりも、大樹が私の想いを上手く代弁出来るとは思えなかった。



大樹なら言葉で説得じゃなくて、力に物を言わせそうだしね。




そんな私の予想通り、大樹は指をバキバキ鳴らしながら息巻いて言う。




「あの野郎…もう逃がさねーぞ。

ボコボコにぶん殴って、引きずって、連れ帰るかんな…」





うん、やっぱり私一人で行こう。



一人でモスクワの流星の下へ…

そう思う私の気持ちは家族の、特に心配性の父の猛反対であえなく却下された。




「若い娘が外国で行方不明なんて良く聞く話しだろ。

絶対にダメだ。

どうしても行きたいなら、ボディーガードに大樹を連れて行け。

お前は何かあっても、走って逃げる事も出来ないんだぞ?」





ボディーガードに大樹…

果たして役に立つのか、ただのお荷物になるのか疑問だが、

やむなく「じゃあ、大樹と一緒に…」と言う話しになり、

色々と準備をして正月明けに出発と予定を立てていた。



まずはパスポート。

海外旅行をした事のない私は、これからパスポートを取得しなければならない。



一方大樹は、去年の農協青年部主催の3年に1度の慰安旅行で、冬の韓国ツアーに行ったばかりだから、パスポートを既に持っていた。



私がパスポートを取得するまで待てなかったのか、それともまだ一人で行く考えを曲げていなかったのか…



私がいつも大切な物をしまっている机の引き出しの上段から、我妻さんの住所の書かれた名刺を勝手に持ち出し、


『俺にまかせろ』
と汚い字の書き置きを残して、

年末の富良野から一人で旅立ってしまった……




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