どんなあなたでも
序章
まだ肌寒い春。辺りでは鳥たちが歌い、
花や草木は春風にのって踊っている。
そんな中、森の中にある流れの速い川辺に
男女と小さな女の子がいた。
こんな日には散歩をしたいが、――どうやら
散歩ではないらしい。

「早く川に落ちなさいよ!」

「かぁ…さ、ま……?」


目の前にいる少女の両親は実の娘に向かって
残酷な言葉を放った。

どうして…どうして、そんなことを言うの?


「おめぇなんか、いらねんだよ!」


はっ、と息を飲んだ。
父の言葉は幼い少女の心を抉った。
ポロポロと涙が零れる。
自分を虐めてくる村の人々。自分を必要としない両親。
まるで、世界の全てから拒絶されたような
感覚にガタガタと肩が震え一歩後ずさる。


「死ね」

「あんたなんか産まれなければ良かった!」

「や、めて……やめて……」


これ以上聞きたくないと耳を塞ぎ、
頭を振った。
もう、やめて。嫌だ。何も言わないで。
全ての物を拒絶するように目を瞑った。


「さようなら」


えっ、と目を開いたが時既に遅し。
目の前にはこの場に不釣り合いな笑顔をした母。
何?そう思った時、強い力で
肩を押され次には背中を打つような感覚を感じた。
母が女の子を川に落としたのだ。

肌を指すような冷たさに頭が回らない。
あぁ、冷たいなぁ。このままだと風邪引いちゃうかも。
なんて考えてる時点で
思考がおかしくなっているのだろう。
こうなることをどこかで予想していたのかもしれない。
いつの間にか両親は遠くにいて、こちらを見て
笑っていた。残酷な程に。

この後、どうなるんだろう。私は。
どんどん手足の感覚が無くなり、瞼も重くなってきた。

死ぬ……のかな?私……。

手を空に伸ばす。それを最後にプツリと意識が途切れた。




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