もう一度…。


「こうやってみるとやっぱいい男だな~。昨日は腹立って忘れてたけど。」


口をとがらせた都が、遠くの矢島湊にデコピンする。
その姿に苦笑いしながら、わたしはコーヒーを少し口に含んだ。



あれから、昨日のことは二人だけの中にとどめておこうと決めた。

彼も母親のことを必要以上に話すのは少し気恥ずかしいようだったし
わたしもずっと誰にもいえなかったホントの気持ちを知られるのは、
都やみんなを傷つける気がして少し怖かった。


そっと窓の外に目を移し、昨日のことを思い出す。
別れ際、皆に気づかれないように『誰にも内緒ですよ。』
とささやいた彼の顔はまるでいたずらっ子のようで
なんだか少しくすぐったかった。


奇跡のような出逢いであっても
そこに続きを夢をみるほど
わたしももう子供じゃない。


それでも、あの笑顔とあの言葉だけは
どうかわたしだけのものであってほしいと
心の中で小さく小さく願った。


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