華は儚し

―――



「…宗十郎さま…?」


足音が箪笥の後ろに人がいるように聞こえて、

白色の浴衣を纏いつつ、

そっと忍び足で近づきました。


「隠れていらっしゃるのですか、

宗十郎様」


好奇心は一点に集中しており、

判断が遅れたのも言わずと知れています。


「んっ…んん!」


強い力に拘束され、

布巾で口と鼻を閉ざされてしまい、

正直この後のことは覚えてはおりません……。


うっすらと見えたのは、

宗十郎様でも菊乃丞様でも、お父様でも、

役者の方々でもありません。



(宗十郎…さま…)

< 102 / 221 >

この作品をシェア

pagetop