華は儚し
―――

桐島様の屋敷に

入り浸る菊乃丞は悔しがる顔して、


「…秋良もようやく牙を向けてきたな」

疲れをとるためか焼酎を飲み干す。


「私も江戸で芝居をすることになった。

男も男で桐島様ばかり狙っていたとしても

意味ないことが分かってきた。

桐島組は口を割らないから、まだ胡坐をかいてはいるとしても、

あの男のやることだ、

数日すれば桐里が江戸にいることがばれるのも

時間の問題になるだろう」



まだ俺の身体に桐里の温もりが残ってはいないか、

何度も確認をしたはいいが、


「…どうした」


雁字搦めに狙われる桐里を

守られなかった自身に悔しさを感じていたのだ。

「いや…。天英院殿の者は妖しいと思うてな」

「ほう…、菊乃丞の睨みは大体当たってしまう…」


小耳にはさむ程度で、考えを話すに絶句した。

「そうか。ありえるな」

「今は絵島という者に

桐里を守ってもらわなくてはならないと思うのだが?」


そう言われて、

すぐに手紙を書きついた。

桐里相手よりも絵島に送りつけるほうが良いと

判断したうえでの書留。


「…おそらくだが、

桐島座と手を組んでいる、

お前と私が働く場の山村座の生島新五郎と

絵島殿は恋仲にいるとかないとか」

「生島はとても人気のある役者ではないか。

もしかしたら、

天英院殿は見計らっていると思われる」
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