落雁
■第一章

弥に刀と書いてミトと読む。




□ □ □



「お嬢」


ドスのきいた低く野太い男の声が襖の奥で聞こえた。
もともと深い眠りにはつかないタイプのあたしはその一声ですぐに目が覚めた。


朝5時。

あたしが起きる、いつもの時間。
あたしは寝間着を脱ぎ捨てて、枕元におかれている皴一つ無いセーラー服の袖に手を通した。


「お嬢、起きやしたか?」


野太い声の男はあたしが小さい頃から側に尽かせている。
あたしが部屋から出ない限り、襖を開けない律儀な奴だ。

「うん、起きた。ありがとう」

寝間着をきっちり畳み、布団を片付ける。

あたしは襖を開けて、すぐ手前で正座をしていた男に頭を下げる。


「おはよう、甚三(じんざ)」

「おはようございます、お嬢」


磨き上げられた長い廊下に、柄の悪いスーツの男やジャージの男達が並びに並んで、あたしに深々と頭を下げた。



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