落雁
弥刀ちゃんの友人、メルちゃんが事情を分かったような口ぶりでこれからの解決法を説明した。
それに同意したのか、弥刀ちゃんは素直に車に乗り込んだ。
弥刀ちゃんを乗せた黒ベンツから甚三は顔を出して、僕を見た。
それに答えて、笑ってやった。
音もなくベンツは発進する。
「ねぇ、神谷くん」
隣で細い声が聞こえる。それを見やると、疲れたような表情のメルちゃん。
「メルって本名?」
「え、そうだけどー」
その子はからからと笑う。子供みたいだった。
「弥刀ちゃんは、何なの??」
いきなり、真剣な目つきになる。
何なの??って…、あぁ、そうか。弥刀ちゃんがひょいひょいかどうか知らないけど、男4人を倒したことや、犯罪者顔の甚三が現れたことは、あきらかに普通じゃない。
弥刀ちゃんが京極家とかいうやくざ一家の一人娘だってことは、きっと1番の友人であるメルちゃんも知らないことだろう。
それを果たして第三者である僕が言っていいのだろうか。
まぁ、きっと大丈夫だ。根拠はないけど、弥刀ちゃんがここまでして守りたかった存在なわけだから、きっと理解もしてくれるだろう。
「…弥刀ちゃんの家はやくざだよ」
ちらりと彼女を見た。無表情。
「やっぱり?」
今度は、笑った。あまりにも表情の変化が激しいから、目を離せない。
「やっぱりってことは気付いてたの??」
「ううん、やくざのお家だったのは知らなかった。でもさ、ずっと一緒に居ると勘付くものってあるじゃん。弥刀ちゃんみたいに身体能力が高いと、やっぱり普通じゃないのかなーって」
確かに弥刀ちゃんはハードな運動部を兼部しているし、この子の話によると、体育でもそれなりに活発らしい。
「弥刀ちゃんは普通じゃないのに、どうしてそんなに仲が良いの??」
普通じゃない。
僕もこの言葉をうんざりするほど聞いてきた。
誰のどんなことを基準にして考えているのか知らないけど、この“普通”に逸れるとかなりのけ者にされることは知っている。
「えぇー??普通じゃないと、だめなのかなー」
彼女は間延びした声でそう言った。
「確かに弥刀ちゃんはどんな女の子よりも強くて、男らしいけど、それが嫌って思った時は無いかなー。今日、男の人達を殴ってる弥刀ちゃん見て、かっこいいって思ったよ」
ちょっと怖かったけどね、と彼女は笑った。
「普通じゃなくてもいいの??」
「確かに、一般の常識から大きく逸れた人って、あんまり関わりたくない気もするけどさ、それは変化を恐れてるからだよ。私は、そんなつまんない人生嫌だなー。弥刀ちゃんに出会って、毎日楽しいもん」
彼女はとびきりの笑顔を僕に見せてくれた。まるで、何もかも分かったみたいに。
勘の鋭い人間は苦手かもしれない。