落雁


「12代目、朝ですよ」


襖は開けっ放しに、どかどかと部屋の中に入る。
ただっ広い和室のど真ん中に、彼は布団を着ているのか着ていないのか分からない位の酷い寝相で寝ていた。


「12代目!!!」


耳元で叫ぶと、彼はやっと目を開けた。


「うーん?みとぉ…」
「いつまで寝惚けてるのよ」

目が開かれたのを確認して、あたしは枕元に正座した。


「今何時ぃ…?」
「6時10分。」
「毎朝、弥刀は正確だねぇ…」


間延びした声で彼は起きる様子もなく寝返りをした。

あたしはそいつの耳朶を引っ張ってやった。


「大の大人がいつまで寝てんだ!!!父さんの付きすらももうしゃんとしてたぞ」
「いだだだだだ」


涙目で起き上がる彼――京極辰巳(たつみ)は今年で50を迎えるいいおっさんだ。

仮にも、あたしの実の父親である。
つまり、京極一家のご当主様だ。


「そうじゃん。源は?」

げん、と言うのは父の付き人で、先程あたしが足蹴にしたジャージ男だ。

「あたしが起こしに来て悪い?」


父はあからさまに顔を歪めた。
ちょっとはその嫌悪感を隠すとかはないのだろうか。

「いやぁ、ね。悪かぁねぇけどよ、みとは気が強いからなぁ…俺も朝はのんびりしたいと言うか…」

寝惚けた顔が困ったような表情を浮かべた。

「のんびりしてどうする。下の連中は朝早くから父さんの挨拶待ちしてんだよ」
「お前がもうちょい遅起きだったら下も楽なんだよ」
「生活習慣病の塊が何をこきゃす」


はだけた胸元を掻きながら、父は欠伸した。



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