落雁

「いいいいつからそこに居た!!!!」
「ぜんぶみてた」


更に顔が熱くなったのが分かる。

「どうやって!!!」
「いや、きみが歩いてたから後ろをつけてた。だって全然、気付かないんだもん」

くくくと神谷は笑い続けている。
あたしの顔はどんどん赤くなっていった。

神谷は立ち上がる。

「…で、どうしたの」
「お前が学校を休むから、風邪でも引いてるんじゃないかと思って、来たんだ…!!!」

冷たい手で、あたしは自分の頬を挟んだ。
顔の熱を手が奪ってくれる。

神谷はちょっと考え込んで、笑顔で応えた。

「うん、せいかーい」
「え」

神谷の顔を見た。
いつもと変わらない。

「それでここまで来たの?」
「いや…そうだけど、お前大丈夫なのか?」
「さっき病院行ってた」

神谷が私服だという事に気付く。
随分雰囲気が違って見えた。あたしと同い年には到底見えない。

「ま、いいや。入ったら」

神谷がドアにポケットから取り出した鍵を差し込む。

「家族の人は?」
「居ないよ」

ガチャリとドアを開ける。
部屋から神谷の匂いがした。


< 46 / 259 >

この作品をシェア

pagetop