落雁
■第二章

僕のひみつ




□ □ □



冷たい腕が首に絡まって、僕は目が覚めた。

「ん」


薄く目を開けると、知らない女―――多分きのう寝ただけのひと、が僕を艶っぽい目付きで見下ろした。
彼女はマフラーもコートも着込んでいて、もう帰る準備万端だ。


「つかさぁ、あたしもう行くね。…旦那待ってるし」
「…いってらっしゃーい」

薄く開いていた目を閉じる。
すると、頬を掴まれて彼女に引き寄せられた。

いやらしい音を立てて、彼女は僕の唇に吸い付いた。

また、目を開く。普通は逆なのかな。まぁいいか。


彼女が僕の胸に跨って、息をするのも許さないくらい、激しいキスを続ける。
絡む舌に、僕はただ応えるだけ。まぁ、今は彼女の好きなようにさせればいい。


だって、昨日は僕が彼女を好きなようにしたんだから。

まだ寝惚けている僕を可愛いとでも思ったのだろうか。彼女は幸せそうに微笑んだ。

「あーん、だめ。司見てると、朝から盛っちゃう」
「…そう」


色っぽく笑って、僕の頬を撫でて、彼女は僕の胸から下りた。

僕の目の前から居なくなって、玄関のドアが開けられる音がする。


僕はもう1度寝ようとしたけど、どうしても口に残るその感触のリアルさに、寝ていられる気分ではなかった。

あー。口を漱ぎたい気分。


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