トリプルトラブル
トリプルトラブルラブバトル
 直樹は風呂に浸かっていた。
どういう訳か、脳裏に浮かぶのは美紀のことばかりだった。

実は今日、帰り道で直樹は大に告られていたのだ。

美紀に玉拾いを冷やかされた時、急に恋心が目覚めたと大は言っていた。

そんなことがあったからこそ、直樹は自分を見失ってしまったのだ。


「ふうー」
溜め息を吐きながら、湯船に体を沈める。


(――何だろうこの気持ち?

――まさか!?

――まさか恋かー!?)


「兄貴、ちょっといい? 大のことなんだけれど」
脱衣場に来た秀樹に直樹が声を掛けた。


「大の奴、美紀に恋したんだって」
直樹はストレートに秀樹にぶつけた。


「大が?」
秀樹は思わず吹き出した。


「そんな柄じゃねえだろアイツ」
秀樹は肩を震わせ笑っていた。


「そんなに笑っちゃ可哀相だよ。アイツは本気なんだから」
そう言いながら自分も笑っていた直樹。
目前に恋のバトルが迫っているとも知らずに。




 「みんなー! ご飯の支度が出来たわよー!」

いつものように朝が来る。

昨日眠れなかった秀樹と直樹。それでもすぐに飛び起きる。

「へー、やればできるじゃん!」
美紀の言葉が妙にくすぐったい。

秀樹と直樹は何も言わずただもくもくと食べていた。

「ご馳走様。おいしかった!」
美紀に対して、素直に言える感謝の言葉。

母が亡くなって以来ずっと朝食を作ってくれた美紀。

女の子なんだから当たり前だとどこかで思っていた秀樹。

今改めて美紀の存在の大きさに気付かされていた。




 朝練にも力が入る。
寝不足も美紀の笑顔が吹き飛ばした。

秀樹と直樹は誰よりも早く部室にいた。


備品の手入れや、整備。
やることはいっぱいあった。

他の部員がやって来るまで二人は無言だった。

何となく気恥ずかしかった。
昨日のモヤモヤした気持ちが恋だと気付きながら、どうすることも出来ずに持て余していたのだった。


「基本は走り込みとウォーミングアップだ」

やっと集合した部員の前で一席ぶった後で、秀樹が率先して柔軟体操を始める。


「二人一組になって!」
直樹もそれに乗る。




< 35 / 229 >

この作品をシェア

pagetop